相次ぐ性犯罪報道の被害者が大学生であるケースは珍しくありません。大学内での性暴力被害「キャンパスレイプ」や就活セクハラは、昨今、重大な問題として取り上げられています。
そんな性犯罪の防止を訴えるシンポジウムが6月21日、慶應義塾大学日吉キャンパスで開催されました。
主催は「キャンパスにおける性犯罪の防止を考える慶應シンポジウム実行委員会」。ゲストは、弁護士の上谷さくらさん、ちゃぶ台返し女子アクションの大澤祥子、Voice Up Japanの山本和奈さん、#なんでないのプロジェクトの福田和子さんです。

シンポジウムの趣旨について、呼びかけ人である慶應義塾大学文学部4年の谷虹陽さんは以下のように話しました。
「最近、無罪判決報道が多く取り上げられるように、日本は性犯罪をなくすための課題が山積しています。また、キャンパスレイプや就活セクハラは深刻な問題で、実際にたくさんの学生が被害に遭っています」
「大学は研究機関であるだけでなく、教育機関でもあります。学生が安全に学べる環境を整えるために、性教育を行なうのも務めです。とりわけ慶應義塾大学のような社会的影響力の大きい大学は、それ相応の責任を担っています。この社会の中で、私たちが安心して学ぶことのできる大学のあり方について、考えていきたいと思います」
実名を出したり、顔を公開したりする必要はないので、声をあげてほしい
一人目のゲストは、元毎日新聞記者で、性犯罪やセクハラ問題に詳しい弁護士の上谷さくらさん。昨今の性犯罪の無罪判決に対しても積極的に声をあげています。

「平成29年の内閣府の調査によると、無理やり性交などをされたことがある被害者は、女性が7.8%(13人に1人)、男性が1.5%(67人に1人)でした。これを見ると、どれだけ性被害が蔓延しているのかがわかりますよね。この実態がようやく報道されるようになって、性犯罪や性暴力に対する社会的関心が高まってきたと考えています」
その結果、2017年の刑法改正につながったと話す上谷さん。性犯罪事件の弁護を多く担当する上谷さんのもとには、被害者からの相談が多数届き、中には大学生からの相談もあるそうです。
「大学生は特に性犯罪のターゲットになりやすいと思います。しかも日本の若者はまともな性教育を受けていません。自分が受けた性被害に気付かずに、自分が悪かったと責めてしまう人もたくさんいます。被害者に対する偏見も根強くあるので、バッシングを恐れて泣き寝入りしてしまう人もすごく多いです。そうなると被害が表に出てこない。加害者は自分の加害性に気付くことができません。実名を出したり、顔を公開したりする必要はないので、どこかに助けを求めて、声をあげてほしいです」
最後に、大学と学生に向けたメッセージとして以下のように話しました。
「大学側は、性暴力の危険性について新入生に教えるべきだと思います。大学に入ると、飲酒の機会が増えたり、1人暮らしを始めて解放的になったり、アルバイトを始めて帰りが遅くなったりするかもしれない。生活スタイルが大きく変わる時期です。加害者にも被害者にもなってはいけないということを学生に伝えてください」
「学生の皆さんは、もし被害に遭ってしまったら、弁護士や専門機関に相談してほしいです。とはいえ、いきなり弁護士となるとハードルが高いかもしれませんね。各都道府県には被害者支援センターがあります。そういったところは、無料で相談できて、弁護士を紹介してくれることもあります。また弁護士への相談は、預貯金が300万円以下だったら費用がかからない制度があります。ぜひ積極的に相談してみてください」
性的同意を取る責任はアクションを起こす側にある
続いては、ちゃぶ台返し女子アクション(以下、ちゃぶ女)代表理事で、慶應義塾大学の卒業生でもある大澤祥子が登壇しました。

大澤は、ちゃぶ女が活動の主軸にしている性的同意ワークショップについて紹介。性的同意は、被害者も加害者も生まないために重要なことだと強調しました。
「私たちは、性的同意を全ての性行為で確認されるべき意思だと言っています。同意がない性的な言動は、全て性暴力であるということをしっかり伝えるようにしています。性暴力と聞くと、暗い夜道で暴漢に襲われて…というイメージがあるという人も多いのですが、それはほんの一部。痴漢や盗撮や覗きはもちろん、夫婦間や恋人間でも同意なき性行為はレイプです。あと、大学生同士でよく聞くのは、避妊具を使ってと言っているのに使わずに性行為に及ぶこと。これもれっきとした性暴力です」
さらに、大澤は同意を取る責任はアクションを起こす側にあると話しました。未だ日本社会は、被害を防ぐには自衛が大事だという考えが主流。加害をしないために、性的同意を尊重するためにどうしたらいいのかという考えにシフトしていくべきだと語ります。
「私たちは、海外の学生のアクティビズムにインスパイアされて、同意ワークショップを展開してきました。例えば、ハーバード大学の『Our Harvard Can Do Better Campaign』。学生団体で連帯したり、同意について考えるワークショップを開いたり、署名活動を行なったりした結果、大学の性暴力に関する対応方針を正式に改正しました」
「ただワークショップで個人に訴えるだけじゃ、文化は変えられないというのが正直な実感としてあります。性暴力の問題は、男尊女卑の考え方や性教育の乏しさをはらんでいます。そこで、私たちが大事にしているのは、各大学で性暴力に関するキャンペーンを展開していくこと。それによって、構造的な変化に結びつけていきたいと考えています。オリエンテーションやサークル講習会などで性暴力防止の啓発を義務化したり、ジェンダー問題に取り組む学生団体の立ち上げをサポートしたり、ハラスメントの認定基準の公開を求めたりなど、具体的な変化を目指しています」
ちゃぶ女は、これまでの活動で上智大学や創価大学、早稲田大学、東京大学などの学生たちと連帯してきました。その中で感じた課題について、大澤は以下のように話します。
「性暴力はすごく根深い問題で、一つの施策で全てが解決するわけではないし、一晩で解決するものでもありません。具体的な変化を押し進めると同時に、声をあげる人を増やしていく仕組みも大事だと思っています。どうやってキャンパスにおいても社会においても性暴力を解決しながら市民社会を作っていくのか。常にそれを考えるのが大事な姿勢ではないかなと思います」
誰もが傷付けられちゃいけないし、守られる権利がある
続いては、Voice Up Japanの山本和奈さん、#なんでないのプロジェクトの福田和子さんによる対談が行われました。お二人は、活動の中でさまざまな学生と交流した際に見えた問題点について話しました。

福田さん「自分のことを守っていいんだ、守られていいんだ、と被害者が考えにくい状況にあると思います。せっかく声をあげて訴えても無罪判決になってしまったり、被害者がバッシングされたりする。声をあげた時に、周りの人がどんな反応をするのかは重要ですよね。被害者に対して『そんなのレイプとは言えないよ』と否定する人がいても、第三者が『それは違う』と言うことが大事だと思うんです。声をあげた時に支えてくれる人がいるって思えれば、もっと生きやすくなるはず」
福田さん「スウェーデンで去年、明確な同意がなければ性犯罪という法律ができたんですよ。そのために働きかけていたNPOの『FATTA!』という団体があります。彼らが性的同意を実現するためのステップとして紹介していたのは『自分の権力に気付くこと』と『期待に気付くこと』。彼女だから受け入れなきゃとか、男だから積極的にならなきゃとか、自分が今動いているのは期待によるものなのかどうか。また、その期待を取り除いた時に、本当に自分が望む行動をしているのかを考えてみようというものです」
山本さん「当事者意識がないと、性暴力については考えにくいと思うんですが、統計的には13人に1人の女性が性被害を受けています。きっと近くに苦しんでいる人がいると思うんですよ。相手の立場になって考えてお互いに支え合っていきたいと思います。それから、大人たちは、どうやったら学生を守れるのか対策をとってほしいです」
福田さん「社会の雰囲気や、これまで育ってきた環境などが原因で、自分を守るという前提を持てていない人はすごくたくさんいます。でも誰もが傷付けられちゃいけないし、守られる権利がある。そういう人たちをいかにして守るか、考えていかなきゃいけません」
大学を変えるために尽力する学生たち
今回のシンポジウムを企画した谷さんは、5月から同大学の教授らとともに署名活動「キャンパスにおける性犯罪の防止に取り組む慶應義塾大学有志の声明」を行なっています。慶應義塾大学の学生、教職員、卒業生を対象にしたこの署名は、およそ700名の賛同を集めました。
シンポジウムでは、繰り返し大学運営側や教職員ら、権力を持つ側が責任を果たすべきだと言う意見が飛ぶと同時に、学生一人ひとりが問題意識を持ち、数が集まることで、組織や環境を変えることができるという結論に至りました。
とはいえ、学生が自ら立ち上がり、大学を変えようとすることはとても勇気がいること。それも単なる批判で終わらせず、仲間を集め、上層部と対話し、構造に変化をもたらすことは決して容易ではありません。それでも、みんなが学びやすい安心できる環境を作るために、声をあげ続ける学生たちを心から尊敬します。
彼ら彼女らの声をなかったことにしてはいけません。いかにして、大学や社会を性暴力のない環境にしていくか。私たちは常に考え、行動していかなければなりません。そんなことを深く考えさせられるシンポジウムでした。
Written by あやな(デジタルチーム)
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