一人の力は小さくても、みんなが集まれば大きなパワーになる。近年の国内外のフェミニズム運動の動向を追っていると、そう強く実感します。
昨年の「#KuToo」運動やフラワーデモの全国的な広がりは記憶に新しいと思います。さらに今年は、性犯罪に関する刑法見直しの実現を目指し、より活発なアクションが求められる1年となります。
私たちが現在、参加者を募集している「ちゃぶじょチェンジ・リーダー・プログラム」も、まさにそんな一人ひとりをエンパワメントし、思いを行動にうつす取り組みです。
参加する大学生が自分の大学コミュニティで仲間を集め、性差別や性暴力をなくすための変化を起こしていく同プログラム。ジェンダー平等を目指して、これまで多くの大学生をサポートしてきたちゃぶじょならではの新たな挑戦です。
そんなプロジェクトへの期待と展望について、コーチを担当するさちこさんにインタビューしました!
――ちゃぶじょチェンジ・リーダー・プログラムを始めた経緯について教えてください。
この企画は、なんだかんだいって数年前からずっと思い描いていました。2016年からちゃぶじょでは「性暴力」をメインテーマとして扱うようになり、「ビリーブ」キャンペーン、第三者介入ワークショップ、セクシュアル・コンセント(性的同意)ハンドブックの制作・配布など、様々なアプローチを試行錯誤してきました。
その中でも特にワクワクしたのが、ちゃぶじょが伴走しながら、学生が主体となって自らの力で性暴力をなくすよう大学のあり方を変えていく活動。社会を変えるというとすごく大変なことに聞こえるけど、自分の大学という身近な環境から始めることで、できることはたくさんあります。一緒に活動している大学生が、学部単位で新入生向けに性的同意について話す機会を作ったり、大学の公式資料に性的同意についての記述を載せることに成功したりする姿を見て、強く希望を感じてい ました。
そして、それを1つの大学ではなく複数の大学で同時に取り組むことでの相乗効果が生まれ、大きなムーブメントになっていく様子を見てきました。このムーブメントをもっと広げていきたい。そのためには体系的にサポートできる仕組みがほしい。そうチームで話していた時に、JANICが人権の課題などに取り組む市民団体の助成先を募集していると聞いて、「チャンス!」と思って慌てて応募したのがきっかけです。
――構想は数年前とのことですが、これまでの活動から見えてきた課題は?
性暴力やジェンダーに関しては、社会規範的に男尊女卑が蔓延しており、性差別や 性暴力の深刻さが軽視されているなど、たくさん課題があると感じていました。その背景にあるのは自己決定権や性的同意について学ぶ機会の少なさや、性に限らず人権教育が十分じゃない現状がありますし、組織のガバナンスにおいて性的安全性を守るという視点がないがしろにされていると思います。
個人的に一番強く問題意識を感じているのは、あげた声を変化につなげる仕組みやサポートが少ない、という点です。大学生が声をあげても周りから「意識が高い」と笑われたり、声をあげる資格を問われたり。コミュニティを良くしようと思って問題を指摘した人が、孤立してしまう風潮はまだとても強いです。
ここ数年で、ジェンダーを取り巻く現状に対して声をあげる人が増え、メディアも取り上げるようになり、黙認されていた問題が可視化されるようになりました。それはいいことなのですが、同時に見えてきた問題がなかなか変化につながらなくて、希望を感じにくい側面もあります。
「自分がいる状況のひどさを知るだけでは苦しいだけ。 現状を変える方法と変えるための力を作り 出すことが大切」。コミュニティ・オーガナイジングを初めて学んだ時にこのように言われたのを、今でも覚えています 。いくら啓発や問題提起をしても、その状況を変えるための方法や資源 がない状態のままだと、辛いし、疲弊しちゃう。
性暴力や性差別がないがしろにされる状況が「おかしい!」という意識が共有されつつある今、私たちに必要なのは、その現状を「変えられる」という希望と、変えるためのノウハウです。だからこそ、方法論を学び、自分たちの手で変化を勝ち取ってほしいし、自分には変化を起こす力があると実感できるプログラムにしたいです。
――これまで大学生と活動をしてきた中で印象的だった出来事は?
これまで4つの大学で性暴力をなくす活動をサポートしてきて、言葉にしきれないほどたくさんの学びがありました。中でも特に一番印象に残ったのは「周りの人をエンパワーしようと行動したら、自分がエンパワーされた」という、ある大学生リーダーの言葉。本当にその通りだと思います。自分の行動によって周りが変わること、多くの人たちと一緒にアクションをすることは、自信に繋がるし、なによりすごく楽しいんです。
月に1回、大学生リーダーたちと活動の進捗について話し合うのですが、その時間は私にとっても深い成長の場です。大学側にどう働きかけるかという戦略から、仲間のモチベーションをどう引き出すかという運営方法まで、いろいろな課題と向き合いながら活動に取り組んでいます。最初は一人だったのが、仲間を集めてチームを作ったり、大学側との交渉を通して制度レベルの変化を実現したりしています。試行錯誤して、みんながパワーアップしているのを実感できて、すごく希望を感じますね。
――ちゃぶじょチェンジ・リーダー・プログラムを通して、さちこさんが実現したいと考えていることは?
ボトムアップで変化を起こす力を信じて、性暴力・性差別に対して効果的にアクションを起こすリーダーをたくさん増やしたい! そして変えたいと思う学生が、いわゆる「ゼリー」から抜け出すきっかけになってほしいと思います。これは、半透明のゼリーの中に閉じ込められて圧迫されているイメージです。現状が生きづらいと感じながらも、それをどう変えたら良いかわからないまま、無力感に包まれている状態のことを指しています。私の大学生時代は、まさにそれでした。
閉鎖的で生きづらい社会を変えたくて、積極的にスタディーツアーに参加したり、友だちと社会問題に関する勉強会を立ち上げたりしていました。楽しかったですが、でも、これが本当に何かを変えているのだろうか?とわからなくなり、迷走していました。 「変えたい!」「何かしたい!」 いう気持ちばかりが強く、でも実際に自分がやっていること、できることとの乖離が大きくて、すごく歯痒かったんです。
私がそこから抜け出せたのは、変化を起こすための実践的な知識やスキルを得たことと、最初の一歩を一緒に踏み出してくれるちゃぶじょの仲間たちとの出会いでした。
だからこそ、このプログラムでは、私の実体験から知りたかったこと・得たかったスキル・ほしかったサポートと、これまでの学びをたくさん詰めたものを作りました ! アクティビズムに関する課題の解決から、性暴力・ジェンダー・フェミニズムの知識まで、トレーニングや勉強会、実戦中のコーチングなど様々な形でサポートします。また学ぶだけでなくて、実際にアクションをとることを大切にしているプログラムです。
コミュニティ・オーガナイジングでは「自転車に乗る」ことをよく例えに出します。たくさん練習を重ねて初めて自転車に乗れるようになるように、社会運動も学びと実践を繰り返しながら進んでいくことが大切です。プログラムに参加する学生の皆さんとは一緒に自転車に乗って、時には転んで、時には寄り道しながらも、一緒に進んでいきたいです。
――どんな学生に参加してほしい?
「変えたい!」という強い思いを持っている学生のチャレンジを待っています。経験がなくても方法がわからなくても自信がなくても、変化を起こしたいという気持ちが一番大切です。
私も最初は全然わかりませんでした。周りの人をちゃぶじょの活動に誘うのが怖かったし、イベントを開いても人は集まらないし、失敗だらけでした。もちろん今でも失敗しますよ。でも、挑戦することでたくさんの学びが得られたし、仲間がいたから諦めずに活動を続けられました。そしてなにより、小さいことでも変化を起こすたびに、自分も周りもできることが少しずつ広がっていくことが、すごく楽しい。
変えたい、というみなさんの気持ちを実際の変化につなげられるように最大限サポートしたいですし、一緒に性暴力・性差別のない社会を作っていけたらうれしいです!
――ちゃぶじょチェンジ・リーダー・プログラムへの意気込みをお願いします!
誰かが変えてくれるのを待つのではなく、私たちの力で変えていく。参加者の皆さんが自分たちの大学を変えることで、社会全体において性暴力・性差別をなくすための大きなムーブメントになると信じています。このプログラムから生まれる変化を想像するだけでワクワクします。1年間、笑って、叫んで、自転車に乗りながら、一緒に活動できるのがとても楽しみです!
Written by あやな(デジタルチーム)
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