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#metooと「bad sex」:性的同意があったかどうかを超えた議論の必要性

chabujoshi

さて、新年早々、色々なニュースが世界を騒がせていますが、今回は#metooムーブメントで気になったことについて書きたいと思います。


皆さんは、アジズ・アンサリをご存知でしょうか?

英語圏で人気のコメディアンの彼は、Netflixで人気のシリーズ「マスター・オブ・ゼロ」の製作・主演も手がけています。彼のコメディや番組は、白人社会に生きるマイノリティの視点から作られていて、番組のキャストも多様で、高い評価を得ています。私もとても気に入っていた番組の一つです。

そんな彼が、”sexual misconduct”(性的不品行)で告発されています。

(本文はこちらから見れます。具体的な描写があります。)


記事では、アンサリとデートに行った女性が、ボディ・ランゲージでも言葉でも「NO」と伝えているにも関わらず、しつこく性的行為を要求され、帰りのタクシーで泣きながら帰った…というエピソードが語られています。彼女が性的行為をしたため、ネットでは「嫌なら逃げれば良かった」「こんなことを告発するなんて、本当の性暴力被害者に失礼だ」等、批判の声が多く見受けられます。


これがレイプなのか・レイプではないのか、同意があったのか・同意がなかったのか、性暴力なのか・性暴力じゃないのか…という議論が繰り広げられていますが、重要なポイントとして、こういう経験をした女性や、これが「日常茶飯事である」という声が多いということです。こういう性的体験が日常茶飯事って、ちょっとおかしいと思いませんか?


今回の告発は、いくつかの重要な問題提起をしてくれていると感じます。一つは、相手を傷つけてしまう性関係は、誰でも ー 「良い人」でも、「普通の人」でも ー やってしまいかねないということです。これは、性暴力神話の「モンスター神話」や、レイプカルチャーにも繋がることです。アンサリは、マイノリティの視点から作品を作り、「Modern Romance」という現代のロマンスについての本も出版しただけに、先進的な人物として人気を博していました。そんな中で彼が告発されたため、彼のコメディや作品に勇気付けられ、楽しんできた人たちの中でショックを受けた人は多いと思います。相手を傷つける行為は、「良い人」であるかに関わらず、誰でもやってしまいかねないこと。だからこそ、日々の人間関係の中での丁寧なコミュニケーションが必要なんだと、つくづく思わされました。


もう一つは、同意ももちろん大事なのですが、その前提には(異性愛)性関係における男女間の対等性があるということです。今回の記事を読んでいて、ある記事に出会いました。3年前のものですが、レベッカ・トレイスターの’Why sex that’s consensual can still be bad. And why we’re not talking about it’(「同意があるセックスでも不快なことはある。何故私たちはこれについて話さないのか」)という記事です。その記事は、「bad sex」(同意があるけど不快なセックス)についてこんなことを書いています。そもそも何故、こんなにも多くの女性が不快なセックスを経験しているのか。そういう経験が決して個人の問題ではなく、女性らしさや男性らしさに絡む社会的プレッシャーや、レイプカルチャーやミソジニーを反映しているのではないか。このような分析は、アンサリの件や#metooムーブメントだけでなく、 性関係において必要な議論だと感じました。


同記事の筆者レベッカ・トレイスターは、こう書いています。

「キャンパスレイプや性暴力に対する最近のキャンペーンのおかげで、現代のフェミニストは、いつもセックスに関する権力の不均衡について語っているように見えるかもしれない。しかし、現代のフェミニズムの弱点は、急進的すぎる(overradicalization)のではなく、急進性が足りない(underradicalization)ことではないか。何故かというと、性暴力を除くと、セックスに対する批評が少ないからだ。若いフェミニストは、(同意がある)セックスをフェミニスト的解放の表れと捉える、情熱的で、自信に溢れていて、堂々としたスラットウォーク的イデオロギーを用いている。結果として、性暴力かセックス・ポジティビティか、という極端な性的世界観になっている。それによって、多くの不快なセックス(bad sex)ー 蔓延する性差別的な文化を反映している、全く愉しくなくて搾取的で、ガードが堅いと思われないように認めるには難しいような関係性 ー は批判的に分析されず、多くの若い女性が、何故セックスでこんなに嫌な思いをするのか…と一人で思いを巡らせることになっている。」


元々、セックス・ポジティビティは女性達が自分が思うように性行為を楽しめる世界を実現させるための考えであったのに、現代(※記事が発表されたのは2015年10月)の主流フェミニズムは、セックスとなると「強制や暴力を用いたセックス=レイプ」と「同意があるセックス」という二極端で考えてしまう。「この考え方だと、YESと言ったセックス、暴力や強制がないセックスは、良いものとされる。セックスはフェミニストだと。そして、エンパワーされた女性は、それを思う存分楽しむべきなんだと。」でも実際、セックスを自分が思うように楽しめている女性は少ない。


続けて、筆者トレイスターは、セックスは同意があるかないかという議論を超えて「不正なゲーム」(rigged game)であると書いています。どういうことかと言うと、そもそも、セックスは個人の間の行為ではなく、社会的・文化的要素を反映する、個人を超えた大きな構造の中で起きる行為であるということです。記事の中の具体例には、(異性愛)恋愛や性行為においては、男性だったらグイグイいって(いくべきで)、女性はそれを受け入れる(受け入れるべき)と言う非対称な構造だったり、男性から注目されたり、認められたりすることが女性の価値のものさしになっていること、セックスにおいて男性のクライマックスが「ゴール」で女性のクライマックスは多くの場合任意であること等が挙げられています。


私が記事の中で一番興味深いと思ったのは、このようなセックス・ポジティビティの考え方が、「良いセックスのためのリーン・イン」(Facebook COOシェリル・サンドバーグの著書参照)であると言う意見です。「要するに、良いセックスを阻む構造的な要因はあるけど、職場や寝室では、魔法の言葉があれば、私がもう少し頑張れば、もう少しスキルがあれば、そう言う構造的な要因を越えられる、と。」


フェミニズム理論は、「女性が男性並みになる」だけでは不十分だということを説いてきました。そう言う意味で、トレイスターが記事で書いているように、女性も男性と同じ人数のパートナーと付き合ったり、男性みたいに自分からセックスに誘ってみたりということを個人レベルでしてみても、女性が不快なセックスを経験し続ける構造的な要因には切り込めないということです。女性が性的消費対象であることや、AVが性教育の代わりになってしまっていること、性別による「あるべき像」の蔓延等、不快なセックスを助長している構造的要因はたくさんあります。これらの要因は、どんなに個人レベルで頑張っても(どんなにリーン・インしても)超えられないもの。だからこそ、対等なパートナーシップを実現させるには、個人を超えた解決策が必要です。こういう意味で、トレイスターは、「セックスはまだ政治的である」と書いています。


アンサリの告発記事が議論を呼んでいるのは、私たちが今までずっと「当たり前」と片付けてきた性的関係性が、時に相手を傷つけていることを暴いたからではないでしょうか。自分が ー 「普通の」、「良い人」である自分が ー 誰かを傷つけたかもしれないという事実を認め、受け止めることより、アンサリに対する告発記事を書いた女性を非難し、彼女の声をかき消したほうがよっぽど簡単なのですから。


アンサリの件は、#metooが性犯罪に関するムーブメントではないと気付かせてくれました。同意があったかどうか、レイプだったかどうかという議論を超えて、より大きな視点から議論が必要とされていると感じます。何故、このような記事が出ると「何でアンサリ(男性)はアプローチを止めなかったのか」ではなく「何で彼女はその場から逃げなかったのか」という声が多くあるのか。どうやったら男女の性の非対称性(男性=主体・攻め、女性=客体・受け身)という構造や、「嫌よ嫌よも好きのうち」という考え方を変えられるのか。個人レベルでのアクションを超えて、コミュニティとしてどんな解決策を打ち出し、実行していけるか。簡単に答えが出るわけではありませんが、一緒に考え続け、アクションをとり続けることが大切なのではないでしょうか。


※本文で参照したレベッカ・トレイスター(Rebecca Traister)の記事’Why sex that’s consensual can still be bad. And why we’re not talking about it’は、New Yorkマガジンに最初に掲載されました。原文はこちらから


著者:もえ


 
 
 

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